現在の会社が上海駅の近くにあるため、私は駅前に立ち寄り外食をして帰ることがある。上海駅前には最近、ケンタッキーやミスタードーナツの他、中国系あるいは台湾系のファーストフードやレストランが次々と開店しており、食事のレパートリーには事欠かない。
この上海駅前の「環龍商場」というビルに、「上海駅食堂」という定食屋はあった。フジオフードが手がける「まいどおおきに食堂」だ。セルフ式でご飯やおかずを選んだ後、レジで清算するというスタイル。「まいどおおきに食堂」は、日本人が多い市西部の古北地区と虹梅、巨大ショッピングエリアの徐家匯(天鈅橋路)にも出店している。
私は何度かこの「上海駅食堂」を利用したのだが、この店にはいつも閑古鳥が鳴いていた。開店セール期間中はご飯とみそ汁の半額でアピールしていたものの、逆に“ご飯の定価は1杯8元”という高級さを強調してしまった感じで、中国人がなかなか寄り付かない。食堂の価格帯が他のレストランと比べて特別に高いというわけではない。もっと高級なレストランが周辺にいくつもある。
上海に日本料理屋は数あれど、定食屋というスタイルに馴染みが薄いということもあっただろう。店舗が道路に面しておらず、2階のわかりにくい場所に位置していたのも不利だった。セルフ方式を維持できるほどお客が入らないため、セール終了後には決まった定食セットだけを出すようになっていたが、先日行ってみるとすでに閉店してしまっていた。
私は当初から、日本の定食屋がなぜここに出店したのか不思議で仕方がなかった。上海駅前は、固定客として売上の根幹を支えてくれるであろう日本人がそれほど多く住む地区ではない。他に顧客として見込めるのは、在日経験のある中国人や日本料理を食べ慣れているホワイトカラー層だが、ここはオフィス街というわけでなく、やはり多いとは言えない。ここにやって来るのは、地方から出てきた人、地方へ帰る人、それを見送る家族や友人、そして出張者が多い。こうした層は列車の乗車前後にわざわざ日本食を食べたりする人たちではない。周辺にファーストフード店が立ち並んでいるとはいっても、日本料理屋とはニーズが多少異なる。
銀座と渋谷、巣鴨では行きかう人々の層が異なるように、上海でも地域によって客層が異なっている。南京西路や淮海中路はホワイトカラーの女性が、中山公園は学生などの若者が、徐家匯はホワイトカラーや若者を中心に幅広い層が、南京東路はお上りさんや外国人観光客、デパートでショッピングをする女性たちが、古北や虹橋開発区は日本人や韓国人が多く、陸家嘴はオフィス街のため平日にはホワイトカラーが、週末には家族連れや観光客が多い。
だから、どの消費水準のどういった文化を持つ人々をターゲットとするかによって、出店場所を厳しく吟味する必要はある。「まいどおおきに食堂」が上海駅前に出店し た理由はわからないが、素人目には若者向けのコスプレショップが巣鴨に開店したような奇妙さを感じたわけだ。市場がないことにまったく気が付かなかったの か、通行量が多いから入りが見込めると判断したのか、ライバルがいないため先行できると踏んだのか、それとも他に已むに已まれぬ事情でもあったの か・・・。
上海の飲食店は競争が激しい。日本料理店などもはや物珍しい存在ではなく、場所がよければ繁盛するというわけではない。周辺にどのような店舗が進出しているかを調査する必要もあるし、何より賃料という現実的な問題もある。・・・
実は「上海駅食堂」があった同じビルに、めん類や丼料理を出す「丸天屋」がある。やはり「まいどおおきに食堂」系列の店舗だ。ラーメン1杯5元、うどん1杯7元という激安価格が効いているのか、そこそこ客は入っている。こちらの方は繁盛しそうな感じだ。


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